teru_bookのブログ

本の感想や考察を挙げてます!

「能面検事の死闘」を読んで感じた刃の向き先の違和感

初めに

てるです。今回は中山七里さんの「能面検事の死闘」を読んだ感想をまとめたいと思います。「能面検事の死闘」は能面検事シリーズの3作品目であり1作目は「能面検事」、2作目は「能面検事の奮闘」です。

 

 

能面検事シリーズとは?

能面検事シリーズはどんなことがあっても冷静で表情が変化しない事から<能面>と呼ばれる大阪地検のエース検事・不破俊太郎が事件を解決していくシリーズ。

能面検事の死闘を読んで


ロスジェネとは?

早速内容紹介を。と言いたいところだがその前にロスジェネについて触れようと思う。なぜならばこの作品のテーマの1つとしてロスジェネ世代があるからだ。

ロストジェネレーション、略してロスジェネ。

就職氷河期世代とも言え、バブル崩壊に伴った人件費削減の影響を受けて、正社員での就職ができず、やむを得ずに派遣社員やフリーターといった非正規社員で社会に出るようになった人が他の世代に比べて比較的多い。

あらすじ・内容紹介

作品の一番最初にワゴン車が南海電鉄岸和田駅の改札付近にいる利用客の列に突っ込む。それだけでは終わらず、車から出てきた運転手は刃渡り30cmの大型サバイバルナイフを手に通行に向かっていき通行人をさしだしたのだ。標的にされたのは子供や老人、女性であった。

この後すぐに駅前の騒ぎに気付いていた警官2名が現場に駆け付けた。犯人の名前は笹清政市。警官が銃を構えると同時に笹清政市は抵抗のせずおとなしく警官に捕まったのであった。

しかし笹清政市の逮捕から数日後、大阪地検にて郵便物が爆発、6名が重軽傷を負ってしまう。被疑者は自らを〈ロスト・ルサンチマン〉と名乗り、笹清政市の釈放を求める。

これによって大阪地検はこの行為をテロ行為とみなし、テロリストと司法の対決となって行く。

「復讐の刃」の向き先

この本の事件に限った話ではなく、無差別攻撃といわれる事件はある?だがしかし、本当に無差別なのだろうか?

無差別と言いながらもその対象となってしまっているのは子供や女性、老人といった弱者だ。(この場で女性と男性どっちが強いとかは議論しません。ただ傾向として男性の方が女性よりも力が強いのが現状です。)

もし社会への復讐をしたいならば社会の中心に攻め込まないのか?と疑問に思った。別に行政へのテロ行為を勧めているわけではない。社会が変わるにも行政を責めた方が変化する確率が高いように思える。繰り返しになるが行政へのテロ行為を勧めてわけではない。

読んですぐには答えが出なかったが、時間と共に1つの考えが見えてきた。

多くの場合、無差別攻撃など多くの注目がされるような事件は起こす人の言い分として「こんな自分でも何かできるんだぞ」といったものが多いように感じる。

もし仮に行政へ攻めた場合、ほとんどの確率で失敗するといえるだろう。警備員や警察官が配置されていて捕まってしまう可能性があるからだ。

一方で街中でしかも弱者を狙うことで成功率は行政を攻めた場合と比較すると各段に高まる。これによって「自分でもできる」と示せるとともに「世間からの注目」も集められる。これが復讐の刃が弱者に向かう理由なのでは?と考えた。

結局は自己顕示欲を示したいだけなのだと思う。

しかも作中では彼をさも英雄である、という主張する者すら出てくる。

断言するが人を自分の欲望のためだけに7人も殺す人が英雄であるはずがない。今の社会でも何か悪い事をしたときに崇めるようなことが起きることがある。作者はこの現状に「NO」と言いたかったのではないだろうか?

笹清政市の父親について

笹清政市が逮捕され家宅捜査の際に警察から「お父さんにも誹謗中傷などがされるかもしれない」と警官に言われていた。その時に笹清政市の父親である笹清勝信は「あまりひどかったら黙ってない」というような事を口にしていた。これを読んだ際は彼もこの後事件に関与していくのかな?と思っていたが違った。

この作品の最後のシーンで不破俊太郎は彼に会いに行く。そして彼の言葉によって笹清政市が歪んでいきこのような凶行を起こしたのだった。

作者はこれを通じて一番のモンスターは笹清政市であり生活環境や身近にいる存在がどれだけ大きな影響を与えているか、それがどれだけ重要な事かを伝えたかったのではないだろうか?

能面が崩れる

このシリーズを読んだことがある人は知っていると思うが不破俊太郎は能面である。他の人たちが焦りや不安を顔に出していても決して顔に出すことはない。

そんな彼も作品の最後の最後で能面が崩れる。それは岸和田駅にて献花台に手を挙げているシーンだ。この時彼は能面ではなく悲痛に歪んでいた。

今までこのシリーズを通してきてずっと能面を貫いていただけに驚いたし、少し安堵したのを今でも覚えている。

能面検事シリーズに続きが出るかはわからないが、このことを事務官である惣領美晴が知ったうえでどのように物語が進行していくかとても興味深い。叶うばこのシリーズの続きを読みたい。

ロスジェネ世代について補足

ロスジェネ世代と聞いてパッと思い浮かぶのが就職氷河期なのでマイナスの意味合いであると考える方も多いと思います。

ただ、ロスジェネ世代の特徴の1つとして倍率の高い厳しい就職活動を乗り越えてきたため優秀な人材が多いそうです。これに関してはあまりロスジェネ世代の方と接点がないため自分はわからないですが、言われてみれば納得します。

まとめ

  • 凄惨な事件を起こしたものが「英雄」であるはずがない
  • 人が考えているよりも環境や身近な存在の影響は大きい

という事を作者は伝えたかったのだと思う。

自分が周りからどのような影響をうけているか?またどんな影響を与えているかを今一度考えたい。